4月28(土)  早春の千手が浜へ

  5時半に目が覚めた。テントのジッパーを開けて見ると真っ青な空である。戦場ヶ原の壁のように連なっている、残雪を頂いた金精の山々に丁度朝日が当たり始め、頂上が輝いている。す〜、ふ〜、と深呼吸を1回した。例によってテントから首だけ出して景色を眺めながらタバコを1本吸う。気温は結構下がっていて、テントのフライに霜が降りていたが、風がないので体感温度はそれほどでもない。今回は、真冬のつもりで沢山着込んできたので、安心である。テールさんはまだ寝ているようなので、トイレに行ったついでに散歩をした。朝日が金精の山々の風景を刻々と変えて行き、もうこれだけで癒されるなあ。

        

  テールさんも起きてきたので、バーナーでお湯を沸かし簡単な朝御飯を食べた。8時、赤沼茶屋発千手が浜行きのバスで千手が浜に向かう。バスは僕ら2人だけの乗客だった。なんだか申し訳ない気分でバスを降り、千手が浜まで歩く。目の前に男体山がドンと構え、中禅寺湖の湖水にその姿を映す変わらぬ美しい景色が出迎えてくれた。今回は湖の際の砂浜にテントを張った。海と違って砂に塩分が無いのでべたつかず、あちこちに砂がまとわりつく事が無く、これなら砂浜のテント泊も気が楽である。 

       

  一段落して、湖岸の散歩に出た。中禅寺湖を左に見ながら遊歩道を歩き、ところどころで湖まで降りてみた。湖の南側は湾になっている場所があり、水流があまり無いせいなのか、少し水がよどんでいるような感じで、千手が浜に比べると透明度が低いようだ。遊歩道の途中には赤ヤシオ、白ヤシオ、シャクナゲが群生している。バッコヤナギが一足早い春を告げ、赤ヤシオはつぼみが今にも開きそうである。もう少し季節が後なら、さぞかし綺麗なのだろうなあ、惜しいことをした。南側から見る千手が浜は、雪を残した金精の山々をバックに素敵な風景だった。新緑が出る頃は、もう山の雪も解けてしまうのだろうか。もし、新緑を前景にこの景色を見ることができたら、さぞかし美しい事だろうなあ。 

       

  散歩から帰って砂浜に寝転がってウトウトと昼寝をした。目が覚めたら風が少し強くなってきて、気温も少し下がってきたので、ゴアの雨具の上下を着てみた。するとこれがなんとも暖かい。おまけに、砂に塩がないから、そのままゴロリと横になっても平気である。なかなか具合の良い装備である。少し早めの焚き火を始めた。薪はそこら中に転がっている流木や枯れ枝を集めてきて燃やした。薪の心配が無いというのも、なんとも嬉しい。横を流れている小川の水をくんでコーヒーを入れたりして、夕方まで焚き火にあたりながらノンビリ過ごした。生水を飲めるというのも、これまた嬉しい限りである。 

    

  男体山にあたる夕日が無くなり、薄暮を前に、少し早い夕食の準備にかかる。といっても、今回は米を炊くこともぜず、サトウのゴハンでお粥を作った。前日に飲んだ頭痛薬で胃をやられてしまい、とても調子が悪かった。とにかく胃に何かを入れておかないとキリキリと痛みだし、それを抑えるために、ひっきりなしに物を食べていたような気がする。早めの夕食を済ませ、コーヒーを飲みながら、焚き火にあたり、テールさんとボソボソと会話をし、夜になった。 

  遠くにポツポツ対岸の明かりが見える。闇の中にボンヤリ浮かぶ男体山のシルエット。あ〜、眠くなってきた。 

☆4月29(日)  小田代ヶ原から西の湖経由で千手が浜へ

  4時半に起きた。テントの中はもう薄明るい。今日は朝日を撮影するために、早起きである。テントを抜け出すとテールさんがもう起きていて、湖の夜明けを眺めながら立っていた。まだ朝日が上がるまでには時間があるので、早速焚き火を始めた。気温は0.9度だった。さすがに焚き火が無いと寒い。焚き火にあたりながらコーヒーを飲み、朝日が上がってくるのを待つ。初冬には真正面から上がる朝日であるが、今の季節は男体山の頂上付近の斜面から上がってくる。夜明けは早いのだが、実際に太陽が顔を出すのは、男体山が邪魔をして7時頃だった。さすがに何度見ても中禅寺湖の夜明けの景色は美しい。何度も書いたが、こんな素晴らしい景色に出会えるキャンプ場は、そうは無いだろうなあ。

  朝食をすませ、撤収の準備にかかる。と、テールさんが『あれ、何してんの?』と聞いてきた。僕はてっきり1泊のつもりだったのだが、テールさんが言うには今回は2泊とのことではないか。すっかり得した気分になった(笑)。今日は西の湖へのハイキングの予定だったが、デジカメの電池を買いに赤沼茶屋まで行くので、一緒に行って、帰りは千手が浜まで歩いてみようと言うことになった。昨日の夜、焚き火にあたりながら冬にここでキャンプをする時の”足”として、クロカンスキーでソリに荷物を積んでくるというアイデアを話していたので、それがどれくらい大変かをこの時期に試してみようと言うことなのである。バックパックに簡単なものを入れ、始発のバスで赤沼茶屋に向かった。 

     

  赤沼茶屋で電池を買い、少し休憩してから、まずは小田代ヶ原に向けて歩き始めた。小田代ヶ原までは遊歩道がしっかり出来ていて、ハイキングを楽しんでいる観光客も多く、ま、こんなモンかなあといった感じだった。小田代を過ぎ弓張峠を下ったあたりで、本来の目的の冬のルート確認ではなく、ハイキングそのものが楽しくなってきて、バス道ではないハイキングコースに入った。このルートが僕には実に楽しい山歩きだった。山を下って西の湖まで歩き、西の湖で大休憩にした。途中でミズナラ、ハルニレの巨木を見ながら、それぞれの木の同定をして歩いた。今日一日で、”今の時期”という限定ではあるが、なんとかミズナラとハルニレの区別が付くようになった。それにしても、1000年を越える樹齢の木が沢山あって、奥日光の実力は凄い。休憩も入れて5時間のハイキングだった。結構疲れたが、とてもとても楽しい、癒される山歩きだった。 

    

     

  行きのバスの運転手さんが、『天気予報では明日は雨である』と話していた。今、テントを張っている場所で雨に降られたら、タープも無いし、湖畔で風に吹かれるとちょいと大変なので、第二キャンプ場の管理棟の軒下へ引っ越すことにした。あらかたの荷物をパッキングし終わったら、なんだかもう一度テントを張るのが億劫になってしまった。『このまま最終のバスでもどりますかあ』との僕の提案に、テールさんも『そうだね』と賛成してくれて、結局、二泊目は無しで帰ることにした。実に軟弱キャンパーである(笑)。 

  赤沼で車に荷物を移し、帰路についた。来るときは夜だったので、それほど気が付かなかったが金精峠にはまだ雪が相当残っており、多いところは1mもの雪が残っていた。峠を越えた群馬県側にある菅沼は、なんとまだ全面結氷!していた。片品村を過ぎ利根村に入るにつれて、季節が急激に変化していく。唐松の芽吹きが始まりだし、そこから少し下がるとそれがみずみずしい緑色に変わる。山桜とソメイヨシノが同時に満開になり、木々の緑も濃くなっていく。唐松の芽吹きと山桜とソメイヨシノが同時であることが、とても新鮮だった。もっと下って沼田の町まで降りると、ついに桜はすっかり終わっていた。わずか数十分で約2ヶ月のタイムスリップをしてきた。体内時計があやふやになっていくような、この何とも言えない不思議な感覚が好きである。 

  ふ〜!しみじみと癒し系のキャンプだったなあ。