☆9月2(日) テン場から稜線まで

目を覚ますと快晴だった。昨日にゃんちゅさんが作っておいてくれた海苔巻きで腹ごしらえをし、食器を洗ったり、タープを撤収したり朝の慌ただしいけどなんだか楽しい作業が始まった。僕は昨日着替えておいたので、今日はまだ乾いていない服をまた着なくてはいけない。気合いを入れてシャツを着た。思わず『ひゅぇ〜!』と声が出た。昨夜は結構気温が下がり、吐く息が見えていたし、放射冷却がのこった渓の気温そのままの濡れた服はとても冷たかった。

シュラフや食器、服その他をまた昨日のようにパッキングし、焚き火を消して、いよいよ出発である。昨日頑張ってこのテン場まで来ておいたおかげで、今日の遡行は時間的に少し余裕がある。釣りをしながらノンビリ進むことになった。タカさんはエサ釣り、にん2さんはルアーで、先行し、僕らがその後を付いていく。僕も仕掛けを作り竿を出した。

テン場を出発して30分くらい来た辺りでたかさん、にん2さんが少し粘っている。僕らはここで小休憩である。ここの景色は美しかった。距離の長い瀞場で、この辺りはまだ少し川幅がある。上がり始めた朝日が両岸の緑を通して川面をきらめかせている。僕は見とれていた。だれかが足を動かすたびに乱れる川面に、緑に染まった朝日がまたキラキラと模様を描く。ため息をついた。実に実に美しい景色だった。この景色をもう一度見るために、ここにもう一度来たいと思うほどの朝日のイタズラだった。

ここから先は、また記憶があやふやである。

ノンビリ釣り上がり、ほぼ全員がイワナをあげていて実に魚影の濃い沢である。ま、こんな場所じゃ普通の釣り士じゃ入ってくる訳もなく、魚影の濃さも頷ける。まみちゃんが27cmのイワナを上げ、竿を折られてしまった。しんちゃんも上げた。僕は残念ながらまだ上げていない。エサに、釣り竿にとまったトンボをつかまえて付けてみたら、水面にイワナが飛び出した。ドキっとしたが、合わせられなかった。いいかげん諦めかけた頃には魚止めの滝に着いてしまった。滝の釜から3、4mのゴルジュである。ゲンさんが、『最後のチャンス』と竿を渡してくれた。しかしアタリが無い。タカさんが釜で釣るように指示してくれた。「右をヘつるのはしんどそうだなぁ」と思っていると、水線で行けるという。胸まで水がくるもののゴルジュを歩いて釜の縁まで行くことができた。直径4mほどの釜の縁に足をかけ、ブドウ虫で流した。3投目を少し誘い気味に引いたら、来た!ドキドキした。ただ、ヤマメと違ってイワナは意外に走らないので慌てることなく引き寄せた。ジャスト30cm。生まれて初めての”尺”だった。

魚止めの滝は右側をロープで確保して貰って登った。テンションがかかる訳でも無いのに、ハーネスにロープがあるだけで、こんなに安心して登れるものか。この滝はロープの安心感もあり、見た目よりは以外と簡単に登ることができた。

この滝を登ると水量が段々少なくなってきた。このあといくつかの小滝を越えたのだが、僕には魚止めの滝よりもなんだか怖かった。最後に近い落ち込みで、後一歩のところでなかなか体重移動が出来なくて踏み出せないでいた。女性陣も含めて全員が登ってしまっている。少し焦る。後ろにいたにん2さんが、『途中のその小さな岩にまず登ってしまうといいんです』とアドバイスしてくれた。『う〜む、そう言われてもなぁ・・・・』と思ったが、ままよっと、上げた右足に思い切って体重を移動させた。一瞬『ヤバっ!』と思ったが、なんとかあがれた。ふ〜!。そのあとは上の石にズルズルと引っ張り上げて貰った。この時のヒヤッとした感覚は今も少し体に残っている。

だんだん渓の水が少なくなってくる。枝沢に入ると登りも急になってきた。ガレ場に入り、ある段を越えるとそこで水は涸れていた。すごく不思議な気分と同時に、やったなぁという気分だった。川をどんどんさかのぼっていくと、いつかは山にたどり着き、そこをたどれば山のてっぺんに着くという当たり前の事実を自分の体で確かめられたことがすごく嬉しかった。

といっても登りはまだまだ続いた。息が切れた。ハアハア言いながら登って行くと、後ろのにん2さんが『大丈夫、みんなだって息が切れてるんですよ』と励ましてくれた。その言葉に励まされ、木をつかみ、草をつかんで、とにかく一歩一歩登った。先頭を行くゲンさんとにゃんちゅうさんの姿はとうに見えなくなっていた。自分では結構なスピードで登っていたつもりだったが、アッという間に引き離され、間があいてしまった。

見上げると木々の隙間から向こうの空が見える気がした。稜線かなぁと思っていると『先頭、到着ぅ〜』と声がかかった。嬉しかった。登り詰めた稜線を右に30mほど行くとそこは灌木も無い2m四方ほどの場所だった。ゲンさんとにゃんちゅうさんがすでにザックを下ろして休んでいる。ゲンさんと握手をして、嬉しさがまたジワ〜っとわいてきた。やったぁ!!

残念ながら僕には未丈ケ岳しか同定出来なかったけれど、360度のパノラマである。爽やかな風に吹かれ、奥只見の山々を眺めながら、『んと、来て良かったぁ・・・』と、心から思っていた。感謝の気持ちで一杯になった。もちろん自分の足で歩いて来たのだけれど、この場所を、このチャンスを与えてくれたメンバーに心からの感謝である。同時に、この感動を誰かに伝えたい!と強烈に思った。

ゆっくり休憩をとって、いよいよ下山である。結構大変だった。ゲンさんが先頭で藪の中にがしがし入っていく。あとで聞いたら踏み後がかすかに有ったのだそうである。この時点では、道も何にもないような場所をガシガシ降りていくので、「よく道も無いのに的確に降りていくモンだなぁ・・」と、後ろを付いていきながら不思議に思っていた。

続く(^^;;;